明るい赤
久しぶりに、浦和のサッカーについて書いてみる。
今期、浦和は生まれ変わりつつある。これまでのサッカーの良いところを捨てて、1ランク上のチームになろうともがいている。これは実に清々しい挑戦で、ここまでは本当に、久しぶりに明るい気持ちで浦和の試合を見ている状況だ。放送が少なくなっているのが残念だけど…… ^^;
フォルカー・フィンケ監督。
浦和に変化をもたらした人である。
ワタクシのドイツ好きが半可通というレベルにさえ達していないことがバレてしまうのだが、恥ずかしながらこのフィンケという名前を、昨年まで全く知らなかった。だから、彼がどんな変革を目指すのか、ニュースで聞くしかなかった。ただなんとなく、ドイツらしくない、細かく繋ぐサッカーをする人らしい、という噂を聞くくらい。
一方で、ギドが「彼を迎えるなら私は浦和と縁を切る」とばかりにアドバイザー契約を解除してしまった、というニュースに驚かされた。ギドと喧嘩別れしてまで得るべき監督なのか、と。オシムに匹敵する指導者だと言う噂もあったものの、ギドは浦和にとってここ数年の成功のシンボルであり、カリスマだ。うーむ、フィンケとか言う人を選んでオジェックみたいな結果だったら、もう後戻りできないんじゃないか……。
そんな不安、開幕戦で掻き消えました。
浦和は昨年のチャンピオンである鹿島とのこの試合、今までの浦和には見られなかったパス回しを披露し、鹿島を慌てさせた。後半は運動量が落ちて、鹿島のカウンター2発に沈んでしまったが、負け試合をこんなに笑顔で観られたことは、それまでなかった。
ワタクシにはこの試合が、これまで成功していたリアクションサッカーに対する、浦和からの決別宣言に見えた。エメルソンの時も、ワシントンの時も、結局は闘莉王や坪井、堀之内といった屈指の3バックとボランチで守って、前の3人程度のカウンターでワンチャンスをモノにするサッカーが、(一時的にとは言え)王者と呼ばれた浦和のサッカーだった。
「浦和のサッカーはつまらない」と当時FC東京の監督だった原に言われても、「勝つことがまず第一なんだ」と自分を納得させていた似非サポの自分だったが、心の底ではリアクションサッカーにこれ以上の夢がないことはひしひしと感じていた。
そして、この開幕の負け試合。リアクションサッカーで勝利を収めた鹿島と、ポゼッションサッカーを目指して散った浦和。自分の目には、初めて美しいサッカーで敗北した浦和の明るい赤が、鹿島のそれよりも数段輝いて見えた。これなら、2,3年後にはいけるかも……。負けてなお、十分な希望を持たせてくれる敗戦だった。
フィンケは公言していた通り、山田直輝や原口元気を使い、チームを活性化させた。フィンケが最初からある程度の成功を得たのは、彼らユース上がりの世代の成長期とたまたま同期した運も見逃せない。もし、彼らの成長期に合わせてフィンケを招聘したのだとしたら、昨期の責任を背負って辞めていった藤口前社長は、数年後に社長に復帰するんじゃなかろうか。
いいことばかり書きたいところだが、今期の2敗目、川崎戦(第11節:5/10)の負け方はひどかった。後半、劣勢になると闘莉王が前線に残っただけでなく、前目の選手たちが前線に横並びになり、まるで4トップか5トップのような布陣になり、そこにロングボールを放り込むだけ。2列目が前線に吸収されてしまっているため、相手DFのクリアボールを全く拾うことができなくなり、昨期あたりのダメな時の浦和に完全に先祖がえりしてしまった。やはりリアクションからポゼッションへの脱皮は、そんなに短期間に達成できるほど甘くはない。
さて、そうこうするうちに2009シーズンの1/3が終わってしまった。鹿島が頭一つ抜け出して、浦和は2位グループの中にいる。ガンバと川崎と鹿島と名古屋は、ACLの影響で1試合少ない。暫定3位の新潟との勝ち点差は3だが、実際には川崎やガンバとの差は、まだ無いと思っていい。逆に、鹿島との差は見た目以上に大きく開いている。
ただ、ワタクシとしては現状の成績は出来過ぎだと感じている。たまたま勝った試合が多い。決めるべきシュートを外し過ぎている割には、星を落としていない。
更にまた、ワタクシとしては今年の優勝は端から考えていない。今2位にいるのが不思議だ。それくらい、大掛かりなシステム変更をしたわけだから。
一昨年、オジェックは4バックへの移行を試し、すぐに諦めた。しかし、フィンケは同じメンバーでそれをきっちりとやってのけた。もちろん、オジェックの時の経験値が残っていたから、オジェックよりフィンケが優れていると単純に言うことはできない。しかし、そういったフォーメイションの変更でさえなかなかできないものなのに、フィンケはほんのわずかな期間で、ポゼッションサッカーのオートマティズムを予想以上のレベルまで植えつけることに成功した。これ、驚きでした。フォーメイションの変更とシステムの変更では、難易度が全然違う。はず。あ、ここで言ってるシステムとは、4-3-3とか3-5-2とかいう、いわゆるフォーメイションとは別の概念です。footballistaの読者には分かると思うんだけど、システムっていうのは、そのチームの基本的な共通意識というか、オートマティズムというか、システマチックな連動性というか、何て言えばいいんだ ^^;
閑話休題(或いは、逃げ)。
バックラインの変更さえ困難だったチームの、根本的なスタンスさえ変えてしまったフィンケは、ワタクシから見るともう十分にマジシャンです。彼になら4年くらいのスパンで任せてみたい。彼がシステムを確立してくれれば、長谷部クラスの選手が急に抜けても、チーム力は極端に下がらない、独自の浦和スタイルが作れそう。そんな気さえする。
サッカーを見ていればおそらく半数くらいの人が行き着くのが、バルサのサッカーのはず。その目指すスタイルは今更言うまでもなく、クライフの言う所の
「美しく敗れる事を恥と思うな、無様に勝つことを恥と思え」
であり、
「1-0で守り切って勝つより、4-5で攻め切って負ける方が良い」
である。
今季の浦和は、そこに目標をしたくなるほどに、魅力の片鱗を見せてくれている。もちろん、まだ壁を登り始めただけ。この壁がどのくらい高いのか、それすらもワタクシにはよく見えないのである。